朝起きて会社に行く。

朝起きて会社に行く。こんな毎日の繰り返しだ。
佐竹喜朗は鏡の中の冴えない男を見つめていた。目の下には深い隈ができていて、口角は垂
れ下がっている。頬はこけ、毛髪には僅かに白髪が混じり始めていた。
最近は心労のせいか、まともに食事をとれていなかった。学生時代はレポートやアルバイト
に追われ、食事を栄養ゼリーのみで済ませていたことはざらにあった。食生活に気を使わなく
とも何となく生きてこられたのは、やはり若さゆえのことだろう。
このまま何も食べずにいたら、餓死できるだろうか。
喜朗の頭に不穏な考えが過ぎった。
同じような日々の繰り返しで、こんな人生を頑張って生き抜いて、いったい報いはどこにあ
るというのか。どうせ最後には死ぬのに。
「朝ごはんはね、一番大事なごはんなのよ。なんてったって一日の始まりのごはんなんだから。
これを抜くなんて言語道断。ガソリンを入れないで遠方に出向くようなもの。野菜ジュースや
ゼリーだけで済まそうなんて考えも全然ダメ。そんなんじゃ、高速道路でガス欠して追突され
ちゃうよ。
まあ、そんなことは実は建前。本音は、私がせっかく早起きして作ったごはんを食べられな
いなんて言わせないよって話。わかった?」
突然、記憶の中の彼女が語りかけてきた。
彼女が居た頃は、朝、昼、夕と彼女が食事を作ってくれていた。その栄養バランスのよく取
れた食事のおかげで、もう若いとも言えなくなったこの年まで喜朗は生きてこられたのかもし
れない。
喜朗は彼女の存在のありがたさを噛み締めながら、食パンをトースターに放り込み、マーガ
リンを塗って食べ、自分のできる最低限の朝食を終えた。
彼女は、いつも喜朗をリセットしてくれる。深淵にいる喜朗に、臆せず手を伸ばし、日常へ
と引き戻してくれる。

は硬かったが、それを突破することは不可能ではなかった。
と、町に持ってきてくれたのだそうです。
一刻も早く帰りたい! もう我慢できない!
しかし、彼にはそんなことを言う度胸はなかった。
そんなことを言ったら、みんなに笑われるだろう。
死んでも最後まで行くことはできないだろうし、喜朗にとってはただの重荷になってしまうだろう。
彼女は彼に大人の死を与えられなかったのが残念だった。
でも、どうせ彼は大丈夫だろう。
鏡の中の男を見ていたのは、彼女が十数年前から知っている人物だった。
その人の名前は佐竹義郎。
鏡の中の男は佐竹義郎だった。
長い間、彼の人生は苦しみの人生でした。
欲しいものをすべて失っていた。
幼い頃に母親を亡くした。
若くして学業を諦め、物乞いの生活を余儀なくされていた

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