うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始…

うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに頓狂とんきょうな声を出して駆け込んで来て、いきなり肌はだをぬいだと思ったら背中にお灸きゅうのあとがいっぱいあったので、三四郎さんしろうの記憶に残っている。じいさんが汗をふいて、肌を入れて、女の隣に腰をかけたまでよく注意して見ていたくらいである。
 女とは京都からの相乗りである。乗った時から三四郎の目についた。第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、だんだん京大阪へ近づいて来るうちに、女の色が次第に白くなるのでいつのまにか故郷を遠のくような哀れを感じていた。それでこの女が車室にはいって来た時は、なんとなく異性の味方を得た心持ちがした。この女の色はじっさい九州色きゅうしゅういろであった。
 三輪田みわたのお光みつさんと同じ色である。国を立つまぎわまでは、お光さんは、うるさい女であった。そばを離れるのが大いにありがたかった。けれども、こうしてみると、お光さんのようなのもけっして悪くはない。
 ただ顔だちからいうと、この女のほうがよほど上等である。口に締まりがある。目がはっきりしている。額がお光さんのようにだだっ広くない。なんとなくいい心持ちにできあがっている。それで三四郎は五分に一度ぐらいは目を上げて女の方を見ていた。時々は女と自分の目がゆきあたることもあった。じいさんが女の隣へ腰をかけた時などは、もっとも注意して、できるだけ長いあいだ、女の様子を見ていた。その時女はにこりと笑って、さあおかけと言ってじいさんに席を譲っていた。それからしばらくして、三四郎は眠くなって寝てしまったのである。
 その寝ているあいだに女とじいさんは懇意になって話を始めたものとみえる。目をあけた三四郎は黙って二人ふたりの話を聞いていた。

列車はようやく京都駅に到着した。そろそろ駅に着いた頃だった。
三四郎は、彼女について悪い予感がしたが、誰にも間違われないように、彼女の隣の席に座ることにした。彼女の隣の席は、電車が止まった席だった。
しばらくすると、電車は京都駅に到着した。駅のホームには、ホテルに向かう人たちが数人いるだけだった。残りの乗客は駅で待っていた。
ようこそ」。
扉が開くと、人々は空席に群がり、列車が動くのを待っていた。
三四郎は、他の駅に比べて数倍の人がいるホームを見ながら、ふと胸に違和感を覚えていた。
「 これは悪い予感だ。全く理解できない」。
三四郎は、京都駅で感じたあの感覚が、京都駅に到着したときの電車の中で感じた感覚と同じだと感じた。スタンしているかのようでした。

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