クソッ!クソッ!どうしてこんなことに…ナギリは心の中で悪態をついた。いつものように大声でツッコミを入れたいが、口はガムテープで塞がれているし、相手を攻撃しようにも、両手は身体の後ろに回され手錠をかけられている。目の前の男…カンタロウの手によって。
ナギリの視線は、背後の空中で刃が向けられた一点に釘付けになっていた。目の前の男にも同じ点があった。
“外人様、退場!” 凪里は叫んだ。”今日は何をやっても、明日には戻ってくるぞ!”
数秒後、くぐもった音が聞こえた。
“エーギル様、何があったのですか?”
“…ん?ああ、何かを地面に落としてしまったんだ。”
“エーギル様、目を覚ましてください。”
“…なんだ?” 凪里は戸惑いながら尋ねた。
“勘太郎、俺だ。永石家の跡取り娘、永篠凪里。今、病院から帰ってきたところです。ここの左側を刺されたんです…隣にいたのが彼だったのでラッキーでした”
“ああ、そうだったのか…なるほど”
“…なんだ?” 凪里は混乱して尋ねた。
“何も。ただ、見たこともない奴に襲われただけだ”
“ああ、なるほど”
“もう、何も言わないよ。帰ってくれ、凪里。もう少ししたら行くから。友達を大切にしなさい”
“…え?”
“…また明日…”
“…”
“…またね…”
“…”
“…”
“…またね…”
“…”
“…私も行く”
ナギリは周りを見渡した。彼の友人はまだ意識がない。両親も同じような状態だった。兄弟も意識がなく、動いていない。動いているのは、凪里自身だけだった。
黒服の男の足音が近づいてくるのがわかった。
“・・・外人様?”
彼が顔を上げると、白い顔が見えた。
“長篠凪里?なぜここにいるのだ?”
“…”
“…私は見たこともない人に襲われました。あと数時間で退院です”
「…わかったよ、ナギリ。でも、友達のことは忘れないでね。この後、もう二度と会うことはないんだから。心配するな、ナギリ」。
“…はい、外人様”
怖がらせてしまったかしら…