青年はため息をついた。
鬱陶しいほどに密集したビル群、途切れることのない車の騒音。
それに加えてタイトな仕事のスケジュール。そして取引先の機嫌を損ねないようにすることがこんなにもストレスになるものだとは考えもしなかった。
今の社畜のような生活に比べれば大学時代はおろか今までの人生全てがまるで正反対の楽園だったかのように思えてくる。
青年は鳴り響くエンジン音に背を向けガードレールに腰をかけた。カバンからタバコを取り出し人目も気にせず口に加えたタバコに火をつけようとしたその瞬間、右目の視界に入ってきた女性に釘付けになった。
同時に思わず「あっ」という青年の裏声が響いた。しかしその声も鳴り響くエンジン音にかき消されて誰一人気づいてない。その女性も左手首を顔に近づけて時刻を確認しているだけだった。
その左腕の動作や服装、髪型、または左肩にぶら下がっている洗麗なエルメスのバッグすらも青年にとって何一つ特別なものとは感じなかったが、まだ少しだけあどけなさが残る女性の目と鼻からは不思議なくらいの懐かしい感覚が胸に込み上げてきた。
青年はスローモーションのようにゆっくりと流れているように見えた女性の顔に目を注ぎながら、無数にある線上の螺旋の中から切れそうになっていた1つの記憶に焦点を当ててそれを強く引っ張り出した。
すると記憶から消えかかっていた"あいつ"の顔が浮かび上がってきた。それと同時に、もう忘れていた中学の頃のあいつとの思い出が走馬灯のように現れて、止まっていた呼吸が再開されるまでそれは頭の中を駆けめぐった。
「行こう」そう心の中で反響した言葉を合図に呼吸を取り戻した青年は艶やかな後ろ髪を黒いジャケットの上になびかせながら歩いていくその女性の後を追いかけた。
地面に落としていたタバコが青年の強いステップのせいで無残な姿になって頭部から中身が飛び出でている。
青年はすぐに女性に追い付き後ろから女性の肩を掴もうとしたが、右腕を伸ばしかけたところで慌てた心に一つの疑問が波を打って青年の腕は止まった。
待て。まずこの女は一体今どこで何をしているのか。いつの間にか姿を消していなくなっていた。成人式も同窓会も来ることはなかった。
中学の先生も何もなかったかのように振る舞っているだけだった。
よくわからないまま中学を卒業していつの間にか大人になって働いていた。
今何をしているのか知りたい。その思いが青年を冷静にさせ、気づかれないように静かに女性の後をつけることにした。
青年は道から顔を背けて、再び顔を上げた。
その女性は二日前に見た女性とは変わっていた。
それは長い髪の毛だけではなく、彼女の服も、青年がいつも見ていた女子高生の制服ではなく、黒いドレスを着ていた。
青年は微笑んだ。
“え?” 女性の声は少し耳障りだった。”あなたは四川医科大学の管理人になっている人ではないですか?あなたなの?”
“えーと、そうです。” 青年はうなずいた。
“どうやって私のことを知ったのですか?” 彼女は再び時計を見て、「誰かに見られたんでしょうね。私立大学の友人と一緒に来たのですが、彼女のスケジュールが複雑で、なかなか都合がつかないのです。彼女はとても忙しくて、しばらくレストランにいたそうです。さあ、急いで私を友人のところに連れて行ってください。そこで話そうよ。もう遅いんだから。”
“ああ、そうか、そうか…” 青年はうなずいた。彼は帰ろうとしたが、若い女性が彼を止めた。
“あ、待って、待って