[…]「……申し訳ありません、アレン様と婚約させて頂いた覚えはないのですが」
多くの貴族が集まるあるパーティーでのこと。
「婚約を破棄させてほしい」と薄気味悪い笑みを浮かべたのは、アレーサ公爵家の嫡子、アレン・アレーサである。
対して、その言葉に凛とした態度で返答したこの私は、ミカエラ・グレゴリー。周囲の人がキョトンとした顔で見守る中、私は必死に頭を回転させていた。
まず、この男は誰なのか。
アレーサ公爵の名くらいは聞いたことはあるが、アレンという息子がいたなんて初耳だ。もちろん会ったこともないし、話したのもついさっきだ。次に、婚約破棄を大勢の前で宣言したこと。
いくら名家の嫡子だからといって、この場でそんなことを言ってしまえば、もう後にも引けないだろう。
私がこんな男知らないと言えば、彼に大馬鹿のレッテルが貼られてしまうことは間違いない。「なに?どういうことだ?」
しばらくの沈黙の後、アレンは眉間にしわを寄せ、首を傾けた。
「先ほど申し上げた通りです。私はアレン様と婚約などしておりません。そもそも話したのも今日が初めてのことですし……」
「なんだと!?そんなはずはない、僕は君と……」釈然としない様子のアレンの肩を、背の高い男性が叩いた。
「あ、父さん」彼はアレンの父、アレーサ公爵である。
その端正な顔立ちと綺麗に整った白髪は、年齢を感じさせない若々しさに満ち溢れている。
二人は私に背を向けて何かを話し始めた。
おそらく彼が言い放った婚約破棄について話しているのだろう。
両者は大声を出すこともなく、静かに話し合いをしていたが、そのおかげか周りの野次馬貴族たちは思い思いに話に花を咲かせていた。
一人の貴族がこう言った。
アレン様は頭がおかしくなってしまった。
現実と夢の区別がつかなくなって、見知らぬ女性と婚約していると勘違いしたんだ。もう一人はこう言った。
これは何かの演出なんだ。
パーティーを盛り上げるための余興で、アレーサ公爵が画策したものだろうと。おそらくこの件に関係していない私は、アレーサ家の礼儀正しい話し合いに耳を傾けることもなく、周囲の噂に聞き耳を立てていた。
しかしどれも私の予想とは違う話で、正直がっかりしてきた。
何で皆気づかないの?実は先ほどから私は気になっていることが一つだけあった。
おそらくそれが真実なのだとは思うが、これ以上アレンに恥をかかせるのも気が引けるので黙っていたのだ。
しかしその時、アレンが振り返り、自信たっぷりにこう言った。「ミレー。父とも話し合ったんだが、やはり婚約は破棄させて……」
違うのよ。
ミレーは私の双子の妹なのよ……。やっぱりこの人は、私を妹のミレーと間違えている!!
さて、どうしたものか。
もう正直に言ってしまおうか、私はミレーじゃなくて姉のミカエラですって。
しかし、出来れば穏便に済ませたい気持ちもある。「ミレー、聞いているのか!?」
しかも妹は今、両親と遠くに出かけていて三日は帰ってこない。
やはりここは返事を引き延ばすのが得策だろう。「あの……アレン様、少しだけ考える時間をいただけませんか?」
「時間?どれくらいだ?」
「三日ほど頂ければ……」
「三日……」アレンは苦虫を嚙み潰したような顔をしたが、「分かった」と頷くと、父親と共にその場を去ってしまった……
三日後。ミレーが家に帰ってくるやいなや、私は彼女を自分の部屋に呼びだした。
「話ってなに?」
少し疲れた様子でミレーが入ってくると、私はギロッと彼女を睨みつけた。
「あなた、アレンっていう人と婚約してたんだって?」
「え?何言ってるの?」
「パーティーで知ったのよ、あなたが婚約……」
「ちょっと待って!あんたパーティーに行ったの?」すると慌てた様子でミレーはベッドの横の引き出しを開けた。
そこには未開封の薬が十個ほど入っていた。「……やっぱり。あんた薬飲まなかったわね」
「え?薬?」ミレーは何を言っているのだろうか?
私が病気をしているわけでもないのに。「ミレー、あなた何を言っているの?私は病人じゃないのよ」
「は?それはこっちのセリフよ……」そう言うと彼女は頭を抱え、ベッドにどっと腰を下ろした。
「忘れちゃったの!?何回も言ったでしょ!私はミレーじゃなくて、ミカエラだって!」
「え?」
「あなたが妹のミレー!分かる!?ミレーなの!」
あっ。
あ、ああ……私はミレー?
そうだ、思いだした!
私がミレーだったんだ。
その時、私の頭の中にミレーとしての記憶が流れ込んできた。
ミカエラと比べられていたあの頃。
母はいつも姉ばかりを褒めて、私はグズな妹として扱われていた。
私は姉になりたい。ミカエラになりたいと思うようになった。
「そうか……」そして私は自分をミカエラだと思い込むようになっていった。
病状は日に日に酷くなり、ついに医者から薬を出された。
「私がミレーだったのね……」私の目から一筋の涙が頬に流れた。
僕を呼び出したのは、実はアレンという冒険者だった。
彼が強い冒険者であることは間違いなかった。
私は彼に興味を持った。
よく言われることだが、似た者同士はなかなか出会えないものだ。
私が彼と話している間、彼はおそらく誰かと会話をしている最中だろう。
しかし、それには問題があった。
アレンの行動はとても奇妙だった。
彼の言葉と行動は、すべて一方向に向かっているように見えた。
しかも、その時すでに見知らぬ場所にいるかのように、「これからインターネットを使う」という話をしているのだ。
彼は急いでいたのだろうか?アレンはインターネットの使い方を知らなかった。
行動もおかしいし、使い方もわからない。
では、その人はどんな人だったのか?
どのような存在であれば、このような結果をもたらすことができるのだろうか。
最初の頃は、そんなことはあり得ないと思っていました。