「お兄さん、落としたよ」と差し出された紙切れは、よく見たら雑に折りたたまれた1万円札だった。先程、5mくらい手前の自動販売機で水を買ったのだが、そのときに足元に落ちていたのだろう。親切なスーツの男性が僕のものだと思って届けてくれたようだ。でも、これは僕のじゃない。よく見ないで受け取ったけど、どう考えても僕のじゃない。
私はまだ10歳でしたが、もうおかしいですよね。取り返しのつかないことになった人には会っていません。どうしたらいいのかわからないんです。
で、学校に戻って、疑問に思うんです。どうしたらいいんだろう?どうしたら、私を守るためにくれた人にこれを返せるんだろう。できません。返したくない。
箱の中にあるものは、私の大切な一部なのです。
* * *
朝になった。私は自分の部屋にいる。小雨が降ってきた。ドアをノックする音がする。私は出ようとする。
“比企谷くん、何してるの?”
私と同じくらいの年齢の女の子がドアの前に立っている。小柄な彼女は、白いブラウスにボタン式の白いブレザーを着て、ゆったりとした白いパンツを履いている。髪は後ろに流している。
“あ、すみません! あなたは誰ですか?”
“比企谷くん、私は伊野です。今日のメイドサービスを担当しています。”
“そうですか。
彼女は、いろいろなことを経験してきた人のようだ。
“伊野ちゃんと戸塚君と一緒に来ました。”
“ああ、伊野ちゃんと戸塚君か。お久しぶりです。”
私と話をするために訪れているのだろう