「お兄さん、落としたよ」と差し出された紙切れは、よく見たら雑に折りたたまれた1万円札だった。先程、5mくらい手前の自動販売機で水を買ったのだが、そのときに足元に落ちていたのだろう。親切なスーツの男性が僕のものだと思って届けてくれたようだ。でも、これは僕のじゃない。よく見ないで受け取ったけど、どう考えても僕のじゃない。
その紙には何と書かれているのかわからないが、住所から誰なのかを知ることができた。それは、小さな女の子だった。
“何か食べ物が欲しいんだけど、家には帰れないんだ。どうしたらいいの?”
私は、彼女と私の家族のために食べ物を買いたいから、お金を持って自販機に来てほしいと頼んだ。私は彼女に現金と私の写真が入った紙を渡した。彼女は感謝の気持ちでいっぱいで、話すこともできませんでした。彼女は逃げ出した。彼女が実際にいくら持っていたのかは分からないが、せめて少しでも持ってきてくれればと思った。
その子の名前はユキ。私はこの時、親がいないということがどういうことなのかを理解しました。一人では生きていけないと思ったのはその時です。
その子のおかげで、世界は自分が見るためだけにあるのではないことを初めて知りました。この世界のすべての人々は、私が出会う機会のない人々です。貧しい人や弱い人だけではない。金持ちや権力者にも出会うことはないだろう