そうして数十秒後には、僕は合鍵を手に再びまぁしぃの家の前に立って…

そうして数十秒後には、僕は合鍵を手に再びまぁしぃの家の前に立っていた。部屋の中からは物音ひとつしない。もしかしてーーーいや、そんなことは。僕の頭の中を、嫌な想像が駆け抜ける。 鍵を開けて、何となく早足で廊下を進んだ。そう広くないリビングに置かれたベッドに、スーツのままの彼が突っ伏しているのが見えて、胸を撫で下ろす。 (なんや、やっぱり寝落ちやん) 傍の座卓にお皿とビールを置いてから、彼を揺さぶる。 「起きて、まぁしぃ」 「ん…」 「おきてぇ、きのこ冷めてまうやろ」 綺麗な寝顔は、彼にしてはめずらしく伸びた前髪がかかってよく見えない。どうも先程から感じていた違和感はこれだったらしい。髪を切りに行くほどの時間もなかったという訳か。 それにしてもまぁしぃは起きなかった。静かな部屋に響く寝息がなんだか荒い気がして、初めてしっかり顔を覗き込むと、そこには幼い頃体調を崩した彼とそっくりな真っ赤な頬があった。 「まぁし、起きて!返事してや!……あぁもう、」 とにかく、飲むものと、タオルと、それから家にあった解熱剤を大急ぎで取ってきた。それでも依然として意識は無いようで、とりあえず服を脱がせて楽なものに変えてやる。 ひと段落ついて、まぁしぃの両親にも言っておかなきゃとスマホを手に取った。コール音は普段の何倍にも長く感じられた。というのも、まぁしぃが倒れてしまったのに少なからず自分の責任を感じていたのだ。確かに彼はここ1週間くらい、今まで見たこともないくらいに多忙で、いちばん近くにいる僕ですら3日間も顔を見れていなかった。

真栄田さんの家は少し遠いので、最寄りの駅まで歩いて行くことにした。階段を下りると、駅からさほど遠くない駐車場に着いた。そこに向かって車を走らせると、ドアが閉まっていた。 真志井は再び眠りについたようだった。私は車で自分の家に戻り、そして次の駅まで歩いて行った。そして、次の駅まで歩いた。 真志井の家にたどり着くまでに10時間かかった。翌日、彼にそのことを聞いてみた。彼はあまり覚えていなかった。しかし、真志井はその出来事を覚えていた。朝、起きて台所を掃除していたら、誰かが来る音がしたという。 その時、自分にできることはドアを開けることだけだった

Photo by John K Thorne

この作品の出来はいかがでしたでしょうか。ご判定を投票いただくと幸いです。
 
- 投票結果 -
よい
わるい
お気軽にコメント残して頂ければ、うれしいです。