キクは、礼拝堂の壁に掛けてある絵の中の髭のお父様がヌルヌルした人間の卵を1つ1つコインロッカーの中に置いている様を想像した。でも違うような気がした。卵を置いていくのは女のような気がする。そしてその中で生まれた赤ん坊をお父様が天に掲げるのだ。ね、見てごらん、ハシが声をかけた。髪を赤く染めてサングラスをした女が鍵を持って自分の箱を探している。卵を産んで置いたのはきっとあんな感じの尻の大きな女だ。きっとあいつは卵を産んでるんだよ。女は自分の箱の前で止まり鍵を差し込んだ。扉が開いて丸い赤いものが転がり落ちたのでキクとハシは声を上げた。女は慌てて両手を広げ受けようとするが次々と落ちてくる赤く丸いものはキクとハシの足元にも1個転がってきた。卵ではなくてトマトだった。キクは足元の1個を思いきり踏みつけた。汁が靴を汚しただけで赤い卵の中には妹も弟もいなかった。
誰が卵を産んでいるのか、すぐにわかった。それは、キクだった。
そのお母さん(年配の女性)は、2人の小さな子どもを連れて、診療所の門の外に立っていた。キクは車に乗り込み、彼女に何者か尋ねた。
“他に息子さんはいらっしゃいますか?”
“はい、いますが、これは私の双子です。”
“どっちが父親なの?”
“心配しないで、もう言ったから”
“なんですって?” と母親は尋ねました。
“ショックでしょうけど ごめんなさい. 知らなかったの”
母親は信じられないという顔でキクを見た。
“私はあなたの妹ですが、何を言っているのかさっぱりわかりません。私たちには子供がいません”
“私が父親です”
“どうやって私たちの卵を取ったんですか?”
キクは、入院していたことを説明した。降ろしてもらった後、彼女を見たのはその日のうちだった。彼女は男の子を抱いていたが、とても小さくて、自分の子だと分からなかった。
お母さんはその様子を見て、”どうして私に抱かせてくれなかったの?”と言ったそうです。
キクはわかったような顔をして、彼女を見た。”抱きたかったけど、抱けなかったの”
お母さんはため息をついて、”そうしてあげられたら “と言いました。
その日のうちに、キクは何週間も娘に会わなくなった。
“これが伝えたかったのに、伝えられないの。ごめんなさい.” と母親は言った。
“いいんだよ。大丈夫、もう話したから”
“ごめんなさい “と 隠していたかもしれないのに”
キクとハシはクリニックで、待合室に座って待っていた。ハシは母親の写真を、キクは娘の写真を手に持っていた。彼女はどうしたらいいのかわからなかった。橋は彼女の隣に座り、その顔は同情に満ちていた。
“あのね、謝る必要はないんだよ