この国では、ある事件を境に俺たち男性の尊厳がなくなった。3XXX年某日、それはとある研究所での出来事だった。そこに長年勤めていた所長がとんでもないウイルスを作ってしまったんだ。それはなんと女性の体を巨大化させてしまうというウイルス。このウイルスが流出し、この国は大パニックに陥った。それもそうだ。なんとそのウイルスは、感染した女性に『男性を丸呑みして胃袋に入れたい』という欲を植え付ける効果もあったのだ。そんな経緯で、いま俺がいるのはどこかというと、彼女の胃袋の中だ。呑み込まれたときは死を覚悟したが、彼女は俺のことを玩具のように胃袋のなかで弄んだ。胃壁でもみくちゃにしたり、体を揺らしたりというように。俺が脱出を試みると、彼女の声が聞こえた。「せっかく消化しないであげてるのに出ようとするなら私の栄養になってもらうわよ。」という声が。俺はここで再認識した。いま俺は完全に彼女の支配下におかれていることを。
(彼女は子供時代について語る。彼女はアメリカの小さな町で生まれた。彼女の父親は、人々を病気から守るウイルスの研究で有名な科学者だった。アメリカでは、科学者がウィルスの研究で有名になるのはよくあることだが、人々を夢中にさせる能力で有名になるのもよくあることだ) 「アメリカの小さな町でしたが、そこでの思い出はたくさんあります。私はそこの学校に通っていました。たくさんの思い出があります。一番印象に残っているのは、町のメインストリートです。子供の頃、初めて見たんだ。大きな噴水があって、町の人たちがそこにいた。家はなかった。本当によく見えた。みんな笑って遊んでいた。本当に美しい町だった。小さな男の子がいて、私と同じ年だった。可愛い男の子だった。背が高くて、お腹が大きくて丸かった。髪は長くて、かわいい顔をしていた。小さな男の子のようだった。彼は私に腕を回し、遊んでくれ、強く抱きしめてくれた。でも、彼のようにきちんとキスはできなかった。彼は以前のように私に触れなかった。彼が私にキスをしたとき、それは口から離れないキスのようだった。そして、それは止められない愛になった。終わりのない、終わらない、そんな愛になった。