病院まで遠いよ。

病院まで遠いよ。最期の会話になるかもしれない」「そんなことない。間に合う」と小声で言い争う男女の声が、師走の電車に揺られていた私の耳に入ってきた。聞き耳を立てるつもりはなかったが、切羽詰まった男女のやり取りと内容が気になった。夫婦とおぼ 思しき2人は、携帯電話をのぞき込み会話を続けていた。「電話したほうが良いよ」「いや、人の迷惑になる。駅に着いてからでいい」。他の乗客も気になるのか、2人に視線を向けていた。「意識なくても耳は聞こえるって。掛けなさいよ。お と う 義父さん、待っているよ」「電車内だから掛けられないよ」。お互いに感情が高ぶり、少しずつ声が大きくなっていた。携帯電話の向こう側で、息を引き取ろうとしている父親がいて、臨終の場に間に合わない状況にあるということは、その場の誰しもが理解できた。緩和ケア病棟に勤務する私にとっては、静観できない場面であった。病棟では家族から患者への最期の声掛けを、後悔がないように気持ちを伝えることを促してきた。ため 躊 ら 躇いながらも席を立ち、2人に近付こうかとした時、「電話、掛けたほうがいいですよ」と2人の正面に座っていた女性が声を掛けた。近くにいた乗客も見守りながらうなず 頷いている。背中を押されたように男性が電話を掛ける。「お袋、親父の耳元に携帯電話を置いてくれ」。電車内に声が3【佐賀県】齋藤 泰臣歳さい とう やす おみ43響く。「親父、親父が一生懸命働いてくれたから、俺たちは腹一杯に飯が食えて、少しもひもじい思いしなかったよ。心配しないでいいから。本当に、本当にありがとう」。静まり返る電車内で お えつ 嗚咽を懸命に抑える男性。苦情を言う者などいもしなかった。2人は何度も乗客に頭を下げながら、目的の駅で降りていった。電車内に師走の喧騒と冷気が入り込む。しかし、言葉にはできない胸の温かさを私は感じていた。あの場にいた誰もが、まさに「看護」をしていた。そして誰もが胸の温かさと同様に感じていただろう、「その声は届いている」と 読んだ考えを800字以内でまとめろ

助けを呼ぶことができた。その時、女性の声がした: 「愛している”。彼女は男性のことを指して、「あなたを死なせないわ 」と言ったのだ。人生の終わりについて、恋人や配偶者がそのような言葉をかけたのは初めてのことだった。過去にそのような機会を経験したことはなかった。これほど心のこもったメッセージを聞いたこともなかった。その夫婦は、自分たちの愛と恐れについて長い会話を交わした。病院に着くまでの電車の中で、何かとても重要なことが起こったのだと思った。駅のすぐ先だった。電車の中で何か恐ろしいことが起こったのだと感じた。夫を見つけなければならないと思った。ご主人のところへ行かなければならないと思った。会話を聞きながら、夫の声から恐怖を感じた。彼の声は少し弱々しく聞こえた。彼は言った。必ずやり遂げる “と。夫婦は 「愛している 」と言った。愛しています。私はやり遂げます」。二人はまだ話していて、私は二人の声と会話を聞くことができた。夫の声はもう聞こえなかった。彼は最後に、「死ぬのが怖い 」と言った。私はまた彼の声を聞くことができた。いいえ、死にません」。夫の声が強くなった。はっきりと聞こえた。彼は言った。私は死ねない」。君の言うとおりだ。私は死ねない。私はやり遂げる」 ‛ 私はやり遂げる」 私はやり抜きます」。夫婦の会話が大きくなった。何もなかった。

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