彼は久しぶりに故郷へ帰ってきた。海岸の小さな駅に降りた彼は怪訝そうに当たりを見渡していた。昔は無邪気になって遊んでた街も今はなにもない。家も山の一部を削り落とされたように高台を作って造成されていた。道も硬く舗装されていた。数年間はあらゆるものが流され、消えた震災の爪痕もほとんど消されている。彼の住んでいた家に差し掛かると彼の数十年の記憶が遥か彼方に消えていき彼の未来があの悪夢に入り込んだようだった。あの悪夢は家族と1人の大切な幼馴染みを子供の時に失ったことだ。
家は小さくてシンプルだった。手前と奥に部屋が2つあった。リビングルームに十分なスペースがあるだけの、小さくてシンプルな家だった。最初の部屋には80代の女性が住んでいた。二番目の部屋には70代の男性がいた。ふたりともソファに横たわり、ひとりは白いワンピースにヘッドスカーフ、もうひとりは濃紺のジャケットにジーンズという出で立ちだった。目を閉じ、荒い呼吸をしていた。 「いつからそこにいたのですか? 「数週間です」と男は答えた。「手伝いに来たんだ」。 「こんにちは」と虹里は言った。「どうしてここに? 「気にしないでください。「家族に会いに来ただけです」。 「わかった」と虹里は言った。「わかった。あまり動揺していないことを祈るよ」。 「そうでもないよ。友達にも彼女にも会いたい。でも、もうすぐ会える新しい友達もいるから、あまり動揺はしていないよ」。 虹里はうなずいた。「そうでしょうね」 「首を伸ばして虹里を見た。「友人を探してくるよ。インターネットで探せるかもしれない」。 男は立ち上がり、居間に行った。数分後、黒い服を着た男を連れて戻ってきた。 「こんにちは。私の名前は万吉です」。 「あ、虹里さんですね」と虹里が言った。「未来から来た虹里です」。 「万吉は言った。「の万吉です。