「…ねぇ、どうしたの?やっぱり体調悪くないっすか?」「気の所為じゃない?大丈夫だよ。でも遅くなってきたしそろそろ帰りましょうか」「オレ、送ってくよ」「大丈夫だって。…待ってるんでしょ」「…うん」引き攣りそうな口角を無理やり上げて、去りゆく背中を見送りながら頭の中では色々な感情が渦巻いていた。知らない人の匂いがした。知らない表情を見た。知らない、声色だった。胃から何かがせり上がってくるのを抑え、気付いたら彼が帰っていった方面とは逆の向きに走り出していた。「ですからもういい加減…」「暇ならお茶しない?」「あ、ねえ!新作のさー」「えぇ〜もう行っちゃうのぉ?」車窓に反射するネオンライトと頭上の暗闇が混じり合い、都会特有の雰囲気の中で行き交う人、人、人。間を縫って進んでいると、誰かの香水の匂いで噎せた。自分は何処に向かっているのだろう。頭の中は妙に冷静だった。あぁ、そういえば、少し先に橋があったか。自分は冷静だと言い聞かせる程、足はどんどん遠くへ向かっていく。乗り物酔いした時のような頭の怠さと、平衡感覚が狂っていくのだけが俯瞰したように強く感じた。無数の思考が飛び交う中で、とある人物の顔が思い浮かんだ。夜中に迷惑かとも思ったが、雑乱とした頭では他に思い当たる節がないため、ふらついた足は遠慮気味に家と反対方向の道へ歩き出した。
目はかすみ、道路は滑りやすく、周りは人だらけで、「」光は薄暗くなっていた。目の前の足がほとんど見えなかった。男の声は遠くに聞こえた。「おい」私はそう言って、意識を失った。RAW Paste Data 私は聞き覚えのある声で目を覚ました。私はまばたきをした。外は明るかった。ドアの向こう側からかすかな物音が聞こえた。辺りを見回したが、誰もいない。私は眠ってしまったのだろうか。そしてなぜかドアから陽の光が差し込んでいた。私はベッドに起き上がったが、ベッドには誰もいなかった。「おい」と私は言って、意識を失った。