こんな夢を見た。

こんな夢を見た。 腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇くちびるの色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然はっきり云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗のぞき込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開あけた。大きな潤うるおいのある眼で、長い睫まつげに包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸ひとみの奥に、自分の姿が鮮あざやかに浮かんでいる。

ここにつながる場所があると聞いた。夜の闇の深いところで、私は目を覚ました。夢の中で、ある人が私にこう言った。正直なところ、誰が死ぬのかはよくわからないが、誰が目覚めるのかは知っている。谷村さん。あなたは目覚めるのです」 しかし、あなたが目覚める能力を持っていないのは残念です。目を覚ます力という能力がある。もう少しだけ、使ってみてください。この力はあなたの覚醒をもたらすことができるのだから そして、その人は振り返って立ち去った。 私の今の意識は、夜の闇の一番深いところにある。目を閉じて仰向けに寝ているが、まだ完全に眠ってはいない。死ぬと言った人からは何も聞いていないし、体の中で光が動いているのを感じているだけだ。死ぬ」と言った人は、私に何を伝えたかったのだろう。私を目覚めさせたくなかったら、何も言わなかったのだろうか。目が覚めたら、私はどうなっているのだろう。私の名前は何だろう。私の人生の記憶はすべてぼやけている。私は天使だと知っている。私に翼をくれた人は天使だ。他にも天使がいることは知っている。

Photo by ratexla (protected by Pixsy)

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