こんな夢を見た。 腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇くちびるの色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然はっきり云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗のぞき込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開あけた。大きな潤うるおいのある眼で、長い睫まつげに包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸ひとみの奥に、自分の姿が鮮あざやかに浮かんでいる。
私は月の女神ティシュリの霊です。私はかつて村の人々に崇拝されていた女でした。月の女神の大きな宮殿に住んでいました。もう疲れたわ。宮殿で一生を過ごし、そして今、私は死のうとしている。私は大きな水の湖に行き、そこに飛び込もうとしている。湖は巨大で、広大で、深い。私はその中に身を沈め、生まれ変わる。私はまた、海の端にある大きな宮殿に生まれ変わるつもりだ。そこで私は海の支配者として君臨する。そこで私は永遠に月の女神に仕える。私は決して死なない。私は永遠に生きる。私はこの世と来世を支配する。私には同じく月の女神である妻がいる。彼女は私の娘でもある。彼女も永遠に生きる。 (15)つまり、夢の中で仰向けになっていた女性はティシュリだった。ティシュリは月の女神だった。(16) 彼女は世界の月の女神であった。彼女は宇宙の叡智を持つ者だった。そのティシュリという女性が、ささやくように『私は死ぬ』と私に言う夢を見た。 (17) 私は彼女の方を横目で見て、長い流れるようなローブを着た若い女性の姿を見た。彼女は黒い瞳で私を見て言った、『あなたがこの世に来た元の女性よ』。 18)夢の中の女性は言った、『私は月の女神ティシュリの世界から来ました