こんな夢を見た。 腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇くちびるの色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然はっきり云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗のぞき込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開あけた。大きな潤うるおいのある眼で、長い睫まつげに包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸ひとみの奥に、自分の姿が鮮あざやかに浮かんでいる。
こんな夢を見た。私が腕組みをして枕元に座っていると、仰向けに横たわった女性が静かな声で言った。彼女は長い髪を枕に寝かせ、柔らかな輪郭のひょうたん型の顔を枕に横たえた。真っ白な頬の奥には温かい血の色がちょうどよく輝き、唇はもちろん赤い。死にそうには見えない。しかし、その女性は静かな声ではっきりと、「私は死にます」と言った。そこで私は、上から目を覗き込みながら「死ぬんですか」と聞いてみた。女性は目をぱちぱちと開けながら、「はい、死にます」と言った。私は「私はきっと死ぬんだ」と思った。そこで私は、彼女の目を上から覗き込みながら、「死ぬんですか」と尋ねた。その女性は目をぱちぱちさせながら「死にます」と言った。私は心の奥底で、死ぬことはあり得ると感じていた。しかし、「死ぬ」という言葉は頭に浮かばなかった。ただ、結局、死ぬことは不可能なのだと感じた。彼女の目は暗く、私を見ることはできなかった。静かな声で、彼女は言った。人生の終わりは見えているけれど、私の死はあまりにも遠い。そして彼女はゆっくりと目を閉じ、息を引き取った。 こんな夢を見た。私が腕組みをして枕元に座っていると、仰向けに横たわった女性が小さな声で言った。彼女は横たわった。