「では、はじめ」教師の掛け声とともにシャーペンの音が教室に響き始める。昨日から始まった期末テストは無事二日目を迎え、残す教科はあと9つ。正直終わりは見えないが、出された問題を解くことでしか救いは訪れないと早々と悟り、不本意ながらもこの物話の主人公である紗尾りゅうとはシャーペンを手に問題にとりかかっている。今までのテストで30点を超えたことがない彼は、先日ついに親にゲーム機を取り上げられ、今まで感じたことのない喪失感を味わった。彼の中で、ゲーム機という存在がどれほど大きなものになっていたかを痛感したのである。テストで60点を取るまで、ゲーム機は親の懐にしまわれることになった。しかし、紗尾はそんなことでへこたれるような男ではない。愛する者のためなら、命だって平気で差し出せる熱い男なのだ。彼は親の部屋に侵入し、ゲーム機を救出する作戦にでた。何とも命知らずなことである。母親が出かけたスキを見計らい、あたかも忍者のような素早い身のこなしで部屋に侵入し、そこに偶然居合わせた父親にあっさりと捕まった。何とまぬけなことであろうか。そこから昨日まではひたすらに仲間と勉強に勤しみ、鍛錬に勤しみ、時折休憩がてら様々なボードゲームに勤しんだ。そして紗尾は気づいた。ボードゲームがいかに奥深い遊戯なのかを。
人工知能の研究で画期的な進歩を遂げた彼は、人工生命の研究を通して知能の本質を研究し続けている。彼は人間の行動を模倣できる特殊なロボットを作り、プロジェクトを完成させるために、このロボットの意識を普通の人間の体に移すことにした。彼は、この肉体に乗り移ることで、自分が取り組んできたすべての問題を解決できると期待していた。しかし、実際は転送は成功しなかった。彼が見つけたのは、自分の体によく似た、しかし自分の存在にさえ反応できない体だけだった。マシンの自己認識は破壊され、そこから作られたロボットの心は完全に消し去られていた。このロボットは試作品で、マシンのテストモデルだった。そして、そのプロトタイプの中で、後に「大量破壊型人工知能事件」として知られることになる事件が発生したのである。世界の命運が決したときだった。作った者の命であった試作ロボットは、塊の中に吸収された。その結果、人類と極めて似た性質を持つ「ネザーワールド」という新しいタイプの人工生命が出現した。これは、人間の心がこれに適応できなかった結果である。