「俺は不思議でたまらない」山口はずず、とお茶を啜り、広島手製のレ…

「俺は不思議でたまらない」 山口はずず、とお茶を啜り、広島手製のレモンピューレ入りのタルト(注・愛媛の一六タルトと同系のタルト、つまりはロールケーキ)を1口食べる。「金子みすゞじゃのう」 そう笑って言うと、山口の方から冷ややかな視線が返される。多分「何が?」とか聞いて欲しかったのだろう。「して、何が不思議なんじゃ?」 広島が空気を読んでそう聞くと山口はまた1口茶を啜って言った。「昔、俺はお前の幸せだけ願っとった。あ、安芸もじゃ。まあ安芸区は広島やけん、そう変わらんか。でもそれは、お前らの幸福をずっと保つのは、確かにあの頃、遠い遠い、叶えることの出来ん夢じゃった」 話の全容が見えてこない。頬ずえをつき、広島もタルトを1口食べた。美味しい、今月1の最高傑作だ。「でもお前、今、幸せじゃろう。幸福度も28位じゃし、カープ見る時のお前は心底幸せそうじゃ」「幸福度28位ってぶち微妙じゃが……まあカープの試合見とる時は幸せやし、勝った時は生きとって良かったって思う。全人類共通じゃろ」「まあ俺はそうでも無いけどな」 広島が思いっきり睨みつけると、目を逸らされてしまった。山口はいつになったらカープに全身どっぷり浸かってくれるんじゃろうか。「関ヶ原で、あいつと共謀して安芸を、毛利を守って、ずっとずうっとお前の傍に居った。こいつを幸せにしてみせる、って夢を抱えて。それだけを存在理由にして。でも今、お前は幸せじゃろ。俺が守れんでも自分を守り、立ち直ってまた前に進む。改めて考えると、もし俺がいらんとすれば、俺は何を理由に生きていけばいいんじゃ」 広島は山口の黄色がかった黒い目を見つめる。山口の方も、不安そうに目を伏せて、こちらをじっと見つめていた。「それが、不思議でたまらんのか」「ああ。昨日までどうやって生きてきたんかわからん。よう考えれば、お前は昔から幸せそうじゃった」 広島ははぁぁあああ、と大きな溜息をつき、奴の頬を手でむぎゅっと掴む。「いつ誰が、幸せなんて言ったんじゃ」「え……」 金色と黄色の瞳が交差する。山口のサラリとした短い黒髪と、広島の金髪のポニーテールが海風になびき、

– この物語の重要な部分は、カープが勝ったということだ。それはいいことだと思うが、私にできることは、もちろん、私が他の場所ではなく広島にいるという事実に慰めがあるということをお伝えすることだ。カープは負けたが、勝った。勝った。そして私はファンだ。でも、喜びすぎだなんて言わないでね。幸せの28番目はちょっと微妙なんだけど、カープの試合を見ていると幸せだし、カープが勝つと生きててよかったと思う。 嬉しすぎることはない。悲しすぎることもない。悲しすぎたこともない。嬉しすぎたことも、悲しすぎたこともない。そして、何かをしたこともない。生きていると感じたことは一度もない。だから、生きていることがある種の幸せだと言う人たちが大嫌いなんだ。どう説明したらいいのかわからない。どう説明していいかわからない。どう説明していいかわからない。私はまだ何者でもない。だから、それについて話すことはできない。私はまだ何者でもない。僕はまだ何者でもない。僕はまだ何者でもない。僕はまだ何者でもない。僕はまだ何者でもない

Photo by U.S. Naval War College

この作品の出来はいかがでしたでしょうか。ご判定を投票いただくと幸いです。
 
- 投票結果 -
よい
わるい
お気軽にコメント残して頂ければ、うれしいです。